【OBOGインタビュー】公認会計士は最強のパスポート。Jリーグの財務経理部部長が語る、自由なキャリアの歩き方

監査法人やコンサルティングファーム、あるいは事業会社の経理・財務部門。公認会計士の活躍の場として真っ先に挙がるこれらの選択肢は、確かに王道のキャリアステップです。しかし、 その専門性が活きるフィールドは、私たちが想像する以上に広く、多彩です。

今回登場するのは、CPA会計学院の卒業生であり、現在Jリーグの財務経理部部長を務める峯健太郎さん。16年に及ぶ監査法人での確固たるキャリアを背景に、コロナ禍の真っ只中という、先行きが見えない時期にスポーツビジネスへと飛び出した異色の会計士です。

難関試験を突破するために費やす膨大な時間は、自らの人生を自由にデザインする力を手に入れるための投資に他なりません。そして掴み取った資格は、実務を通して研鑽を重ねることで、いかなる場でも戦える自信へと変わります。  長年築き上げたキャリアの枠を飛び出し、熱狂の舞台を数字で支える道を選んだ峯さんの軌跡から、合格の先に広がる無限のポテンシャルを解き明かします。

ゲスト

峯健太郎
峯健太郎 公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)財務経理部部長

経歴等

ITバブル崩壊の不透明感から、最強の武器を求めて

編集部

今から20年以上前、経済の先行きが不透明な中で、峯さんが公認会計士を目指された理由をお聞かせください。

自分の能力や知識を客観的に示すための資格を持ちたいと考えたのが原点です。当時はちょうどITバブルが崩壊した後で、日本経済に先行きの見えない不安感が漂っていた時代です。数ある士業の中でも公認会計士に惹かれたのは、活躍できるフィールドが非常に広いため、将来どう転んでも「なんとか食べていけるのではないか」という思いがあったからです。

編集部

当時は資格取得後の将来像をどのように描いていましたか?

明確な将来像を固めていたわけではありませんでしたが、会計の専門知識を持っていれば、自分のやりたいことに幅広く取り組めるはずだと考えていました。
特に惹かれたのは、CPA会計学院の説明会で伺ったチューター(主に大学在学中の試験合格者)の方々の話です。監査法人では若手のうちからクライアントの部長クラスの方々と向き合えることや、海外を含め様々な場所へ出張できること、そして多様な業種に関与できること。 一つの組織に所属しながら、幅広い経験を積めることに大きな魅力を感じていました。

編集部

合格に向けて学習に励んでいた頃の峯さんが、今の姿を見たらどう感じるでしょうか。

Jリーグというフィールドで働く自分の姿に、言葉を失うほど驚くでしょうね。 当時は、監査法人でパートナーを目指す以外の選択肢としては、「事業会社へ転じる」「独立する」といった道を漠然と思い描いていました。今のキャリアも広い意味ではその延長線上にありますが、まさか大好きなスポーツ業界が舞台になるとは全く想像していませんでしたから。本当に、当時の自分が見たら驚愕するはずです。

「答練の結果に一喜一憂しよう」。今を大切にするマインドが、未来を切り拓く

編集部

CPA会計学院での学習についてお聞かせください。当時はまだ小規模だったCPAを選んだ決め手は何だったのでしょうか。

今となっては想像しにくいかもしれませんが、当時は本当に小さな予備校で、正直「ここに入って大丈夫だろうか」と不安を抱いたこともありました。大手の予備校とも慎重に見比べ、随分と考えた記憶があります。
最終的な決め手は、直感に近いものでしたが「合格への勝ち筋が見えた」ことです。講師やチューターの方々と対話するうちに、「この人たちについていけば合格できる」という確信を持てました。こぢんまりとした環境ゆえに仲間の顔が見え、休み時間に雑談をしたり、時には弱音を吐きながら励まし合えたりする雰囲気も魅力的でした。実績も着実に積み上がっており、目の前に最年少合格を果たしたチューターという生きた手本がいたことも受講を決意する要因になりました。

編集部

実際に入学してみて、学習環境はいかがでしたか。

チューターの方々は、単なる受講生としてではなく、本当の後輩の面倒を見るように親身に指導してくれました。勉強のことだけでなく、少し脱線して大学生活や将来のことまで、親身に相談に乗っていただいたのは本当に支えになりました。
当時は日吉校に通っていましたが、大学1年生の夏から本格的な勉強を開始してからは、盆と正月以外は常に校舎にいるような生活でした。土日も関係なく週7日、朝から晩まで学習に没頭する。まさに公認会計士試験という高い壁に、持てる時間のすべてを注ぎ込んで向き合った時期でした。

編集部

受験時代の学習を通じて身につけ、プロとして第一線で活躍する今も大切にされている「マインド」はありますか?

講師やチューターの方々との距離の近さが育んでくれた、非常に人間味のある教えが今も胸に残っています。 特に、代表の国見さんが答練の解説時におっしゃった「答練の結果に一喜一憂しよう」という言葉は、私の仕事観の根底に流れる大切な指針になっています。

編集部

一喜一憂「しない」のではなく、「しよう」、ですか。一般的には逆のアドバイスが多いように思いますが。

はい。長期にわたる受験生活では、ペースを乱さないよう「結果に一々動じず、淡々と進むべきだ」と考えがちですよね。しかし、国見さんは真逆のことを言われたので、非常に印象的でした。
その真意は、「結果が悪ければ心底悔しがり、良ければ頑張った自分を全力で褒める」ということ。つまり「今この瞬間の感情を大切にしろ」という教えだったのだと思います。この言葉があったからこそ、過酷な学習期間の中にも日々の楽しみを見出し、前向きに走り続けることができました。

編集部

そのマインドは、実務の世界に出てからも峯さんの支えになったのでしょうか。

はい、強く実感する場面がありました。大学卒業後、監査法人に約16年間勤めましたが、監査はあらかじめ決められたスケジュールでお客様の数字をチェックし、証明を出すという仕事です。やりがいがあるのは間違いないですが、プロスポーツの世界のような、劇的な勝利や優勝といった感動的なシーンには、日常の業務の中ではなかなか出会えません。
また、近年の監査業務は一つのクライアントの仕事が終われば、すぐに次の決算が始まるというサイクルが続きます。達成感に浸る間もなく次が来るため、いつしか精神的な摩耗を防ごうと、「感情を排して淡々と業務に当たること」を処世術にするようになっていきました。

編集部

あえて感情を動かさないように、自分を守っていたのですね。

ところが、淡々と仕事をこなすスタイルは、私には向いていなかったようです。 ふとしたプロジェクトの区切りで、仲間と打ち上げをして労い合ったり、お客様と「反省会」という名の親睦を深めたりする。そうして共に喜びや悔しさを共有する時間があるからこそ、また次の案件を頑張ろうという活力が湧いてくる。国見さんが受験生活を乗り切るためのアドバイスとして投げかけてくれた『一喜一憂しなさい』という言葉が、プロフェッショナルとして長く情熱を持ち続けるためにも大切なことだったのだと気づきました。

監査法人で培った経験と英語力。偶然の出会いがJリーグへの扉を開く

編集部

監査法人での16年間、具体的にどのようなキャリアを歩まれたのでしょうか。

入社後の3年間は、全国各地に拠点を持つ大手クライアントを担当し、まさに日本中を駆け回る日々でした。北は北海道から南は九州まで、監査業務を通じてプライベートではなかなか訪れることのない場所を訪ねられたことは、非常に豊かな経験でした。
その後、主査(インチャージ)として担当クライアントを任されるようになり、マネージャー昇進後は英語を公用語とするグローバルな業務にも携わるようになりました。海外での語学研修や、外資系企業の日本法人監査などを通じてキャリアの幅を広げていき、監査法人在籍の終盤には、現在の道に繋がるJリーグクラブの監査にも携わることができたのです。

編集部

Jリーグクラブの監査という経験は、峯さんのキャリアにおいて大きな転換点になったかと思います。一般的な企業監査と比較して、サッカービジネスならではの特殊性はどこにあるのでしょうか。

一般的な企業は利益を出すことが目的の一つになりますが、Jクラブの究極の目的はあくまで勝利、そして優勝です。例えば、1億円の当期利益を出して順位は中位のクラブと、利益はゼロでも優勝を果たしたクラブがあった場合、サッカービジネスの世界で圧倒的に評価されるのは後者です。
つまり、サッカービジネスにおいて事業を強化することは、利益を株主に還元するためではなく、チームを強化して勝利を掴み、さらには地域活性化に貢献するための手段であると考えられます。この価値観の根本的な違いが、経営や会計の視点にも独自の彩りを与えており、専門家として知的好奇心を刺激されました。

編集部

その面白さへの気づきが、Jリーグへの転職という決断に繋がっていったのですね。

はい。ただ、そこには本当に多くの偶然が重なっていました。 私はもともとサッカー経験者ではありません。Jリーグ開幕時は小学生で、ブームの中でサッカーを好きになったという、ごく一般的なライト層の一人でした。
転機となったのは、Jリーグクラブの監査を担当していた監査法人の同僚がJリーグへ転職したことです。その業務を引き継ぐ形でクラブの監査を担当することになりました。 実際にスポーツビジネスの最前線に触れてみると、そのダイナミズムに一気に引き込まれました。サッカー好きだった同僚から実務を引き継ぐうちに、私自身もサッカーという競技、そしてビジネスとしての魅力までも引き継いでしまったんです(笑)。
次第に「外部の監査人としてではなく、組織の内側からJリーグの成長に貢献したい」という思いが抑えられなくなり、自ら手を挙げて転職を決意しました。

コロナ禍での挑戦。公認会計士資格が「なんとかなる」という保証になった

編集部

2021年のご転職は、まさにコロナ禍の最中でした。スポーツビジネスが大きな打撃を受けていた時期に、長年勤めた監査法人を離れることに不安はなかったのでしょうか。

もちろん、大きな不安はありました。試合開催すら制限され、売上は急減。ファン・サポーターの方々が以前のようにスタジアムに戻ってきてくれるのか、誰にも予測がつかない状況でしたから。自分自身の決断が本当に正しいのか、自問自答したことも一度や二度ではありません。
しかし、長期的視点に立てばJリーグは着実な成長を続けていましたし、コロナ禍が明ければ必ず再び成長軌道に戻るという確信がありました。そして何より、公認会計士という資格が持つポテンシャルが私の背中を強く押してくれました。万が一、新天地での挑戦が立ち行かなくなったとしても、この資格と経験があれば、また別の道で再スタートできる。その安心感があったからこそ、不透明な状況下でも一歩を踏み出すことができたのだと思います。

編集部

監査法人でマネージャーとして研鑽を積み、まさに峯さんにとって、機が熟した「ベストタイミング」だったのですね。

はい。監査法人というプロフェッショナルの現場でしか得られない経験については、自分の中で「やり切った」と思える地点まで到達できた実感がありました。
もう少し若い時期であれば、また違った形での関わり方があったかもしれません。しかし、多くのクライアントや業界を見て見聞を広め、監査チームをまとめ、最前線の実務経験を積んだこのタイミングだからこそ、Jリーグという大きな組織の課題に向き合う上で、最も適した時期だったと感じています。

数字の裏にあるストーリーを紡ぐ。Jリーグの成長を支える財務経理の仕事

編集部

現在、Jリーグの財務経理部長として、どのような業務をされているのでしょうか。

経費精算や支払・入金のチェック、税務論点の検討、そして予算編成や管理など、一般企業と同様の堅実な実務も数多くあります。しかし、その一方で、Jリーグならではと言えるのが、各クラブへ提供する配分金や助成金の制度設計です。
Jリーグ全体を成長させるために、資金を均等に配分するのか、あるいは傾斜をつけるべきか。はたまた特定の目的に特化した助成にするのか。こうしたロジックをゼロから組み立てるプロセスは非常にクリエイティブで、財務の立場からJリーグの未来を描く楽しさを実感しています。

編集部

この仕事の醍醐味はどんなところに感じますか。

財務経理という職種柄、直接スタジアムの熱狂の中に身を置くわけではありません。しかし、会計という共通ルールを用いて、多様な部署と深くコミュニケーションを図れることに大きな醍醐味を感じています。
例えば、パートナー事業本部が1,000万円の売上を獲得したとします。その1,000万円という数字の背後には、担当者が積み重ねてきた懸命な活動や、そこに至るまでのストーリーが必ず存在します。その資金を活用して新たな施策を打ち出し、ファン・サポーターや来場者が増えていく。その結果もまた、再び数字として私たちの手元に返ってきます。
数字の背後にある狙いを共有し、仲間と共に成果を創り上げていく。その積み重ねのプロセスそのものが、私にとっての何よりの面白さですね。

編集部

公益法人という、一般企業とは異なるフィールドにおいて、公認会計士だからこそ貢献できたと感じる領域はどこにありますか?

正直に申し上げれば、Jリーグは公益法人ですので、上場企業のような複雑なディスクロージャーやM&Aが頻繁に発生するわけではありません。そのため、監査法人で培った高度な専門知識が常に必須かと言われれば、そうではない側面もあります。
しかし、私が財務経理部部長として価値を発揮できているのは、やはり会計・税務の盤石な下地と、監査法人時代に多種多様な企業の事例を実体験として見てきた経験があるからです。
新しい施策を導入する際、「上場企業では一般的にこのようなスキームをとっています。Jリーグならこう応用できるのではないでしょうか」といった、世の中の標準をベースにした具体的な提案ができること。また、税理士や弁護士の先生方と難解な論点について協議する際も、共通の専門知識という土台があるため、スムーズかつ本質的なコミュニケーションが可能です。
このように、標準を知り抜いているからこそ、特殊な環境下でも迷いなく判断を下せる。それこそが、プロフェッショナルとしての最大の強みだと感じています。

目指すは「世界」。Jリーグの成長と共に、自分も走り続ける

編集部

今後、Jリーグという舞台でどのような挑戦をしていきたいとお考えですか。

現在のJリーグは、アジアにおいてはトップリーグの地位を築いていますが、ヨーロッパの5大リーグと比較すると、ビジネス規模には依然として大きな開きがあります 。
世界のビッグクラブと対等に渡り合うための、Jリーグが見据えている具体的なマイルストーンの1つに、売上200億円規模のトップクラブ創出があります 。現在の国内トップクラブの売上が約100億円ですから、これを2倍の規模へ引き上げる必要があります 。
経済的な基盤が整えば、それだけ選手層が厚くなり、クラブの強さに直結します 。その道のりを、財務の専門家として具体的な数字や戦略に落とし込むことが私の使命です。

「自分の可能性に蓋をしないで」。未来の会計士たちへ

編集部

公認会計士を目指して学習に励んでいる方々が、若いうちにやっておいたほうがいいことはありますか。

私自身の後悔でもありますが、「自分には無理だ」とはじめから限界を決めてしまい、挑戦を避けることだけはやめてほしいと思います。
私にとって、その壁は英語でした。監査法人の繁忙期を言い訳にして学習から逃げていましたが、いざ本気で取り組んでみると、実務でなんとか通用するレベルまで習得できました。もっと早く自分の可能性に蓋をせず、挑戦すればよかったという思いがあります。 私にとって公認会計士とは、「会計を軸にして、自分のやりたい仕事に自らの意志で取り組むことができる資格」です。若い皆さんには、自分自身の可能性を否定せず、どんどんチャレンジしていってほしいですね。

編集部

今まさに、過酷な勉強を乗り越えようと励んでいる受験生も多いと思います。最後にメッセージをお願いします。

私もそうでしたが、勉強を始めて1年くらいは全く点数が伸びず、不安な日々が続くと思います。ゴールが果てしなく遠くに見えるかもしれませんが、いかにその現状を楽しめるかが、最後まで走り抜けるための秘訣だと思います。
そのためには、目標を合格、半年先、3ヶ月先、今日1日、そして「この1時間」というように段階的に細かく区切ってみてください。目の前の小さな目標を一つずつ乗り越えていくことで、一歩ずつでも確実に合格に近づいている実感を持つことが大切です。
かつて私が国見さんに言われたように、答練の結果に一喜一憂しながら、今この瞬間を大切に頑張ってください。会計士の資格は、本当に多様な世界へと繋がっています。私が今、Jリーグという舞台で楽しく仕事をしているように、皆さんもこの資格を手にして、自分が輝ける場所で思い切りチャレンジしてほしいと願っています。

インタビュー動画(前編・後編)はこちら


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