会計の魅力にハマり通信で8ヶ月合格。スピード合格はAB論点に絞った学習方法
――:笠原慧さん、本日はよろしくお願いします。
笠原さんは勉強を始めてから合格するまで、通信コースで8カ月ですよね。この期間で合格するのはかなり早いんですが、実際、どのような勉強方法をしていたのか教えていただければと思います。
笠原:8カ月という期間は本当にぎりぎりで、もうこれ以上は縮められないだろうなというくらい、かなりきつかったですが、結果的に一番良かったのが、基礎期の内容を徹底したこと、理解を最重視したところです。これでかなり回転回数を減らすことができたので、短期間でも間に合ったと思います。
――:復習するためにはテキストを回転させようと思うものなんですけれども、笠原さんの場合、あまり回転はさせなかったのですか?
笠原:回転数よりも、回転するたびに今までのベストを超えていくことを意識しました。ただ単に10回転するのではなくて、その間にちゃんと理解がどんどん深まっていないと、回転してもあまり意味ないなと思いました。
――:闇雲に時間をかけてというよりは、理解をしているかどうかに注力したということですね。実際に理解をする上で、CPAの教材はどうでしたか?
笠原:非常に良かったです。2つ良かった点があって、1つ目が、重要性がそれぞれの例題レベルで明記されているので、ここは絶対覚えなきゃいけない、ここはあとでもいいというように、かなりメリハリをつけて理解できるようになった点、
2つ目はテキストの内容面で、解法や仕訳だけではなく、この論点が一体どういう問題で何をするための会計基準なのかというところまでしっかり書いてあったので、ただ覚えるだけではなくて、実際に会社の動きとつなげて理解できる点です。
重要性がしっかりしていること、理解させるための解説が充実していること、この2つが非常に良かったなと思います。
――:CPAでは、重要性がABCとランク付けされているんですけれども、どのあたりまでやられましたか?
笠原:徹底的にC以下は全部省きました。
――:Cはやってないのですか?
笠原:よほどぱっと見て覚えられるもの以外は、全部切ってやっていました。
――:切るときに不安ではなかったですか?
笠原:不安でしたが、そう言っていられる時間の余裕はなかったので、とにかくABだけやりました。不安はありましたけれども、そうするしかなかったというところです。本番はC論点以下からも出題されていましたので、網羅するに越したことはないと思います。
――:働きながら学習されていたんですよね?そうすると、1日に取れる勉強時間は限られていると思うんですけれども、1日どれぐらい勉強されていましたか?
笠原:途中で退職しましたが、2017年12月~2018年3月の仕事をしている間は月に100時間ぐらい、なので1日のアベレージが3時間ぐらいでした。
――:CPAに入学されたのはいつでしたか?
笠原:2017年の12月末です。
――:入会されて、そこから2018年5月の短答式試験前までは働いていたということですか?
笠原:はい。一応こちらがスケジュールです。2018年3月末までは月100時間ぐらいで、退職して勉強に専念してからは200時間ぐらいに増えました。
――:短答式試験の1カ月ぐらい前までは働いていて、退職されてから勉強時間を2倍ぐらいにしたという感じですね。
笠原:そうですね。
――:勉強時間が、短答式試験までだいたい850時間、短答式試験から論文式試験までが550時間とあります。1,400時間ぐらいで合格されたということですね。
笠原:かなり理解重視でやっていて、テキストを読むときもちゃんと自分の言葉で説明できるか、納得しているかというところまで読み込んでいたので、そのぶん回転数が、体感としては2~3回転ぐらいで本番レベルまで持っていけたような印象があります。
――:簿記2級ぐらいのレベルは持っていたいうことですが、会計士試験の勉強はCPAに入ってからが始めてだったということですよね?実際、これは異常な早さだと思います、本当にすごいです。
笠原:AB論点に集中して、C論点は思い切って切ってしまったんですけれども、メリハリを利かせた勉強をしただけあって、A難度は手堅く8割以上取れて、うまくBC難度の埋没問題で捨てることができたのかなと思っています。
――:すごいですね。Aはほぼ8割以上取っていて、短答式試験の結果は約70%取って合格をしているということですね。
笠原:財務は割とぽろぽろこぼしてしまったんですけれども、管理・監査論・企業法はかなり重要性に沿って勉強して、結果的にちゃんと合格点を取れたのかなと思っています。CPAの勉強法を実証できたのかなと思います。
――:勉強していく中で、苦手な科目はありましたか?
笠原:初期は、監査論が圧倒的に苦手でした。実務に近い科目で、非常に抽象的でなかなかイメージがつけられなかったので、例えば「合理的な保証」という用語一つとっても、自分の今までの経験の中から具体的にイメージができなくて、学習初期は苦労しました。ただそこのギャップは、図書館に行って会計士の人が書いているような本を読んで埋めるように努めました。イメージが膨らむようにになってからは、監査論が徐々に得意科目になりました。
――:監査論でも、闇雲に問題を解いていくのではなくて、まず基礎の基礎をやろうというかたちだったのですね。
笠原:それはとても効いたなと思っていて、例えば『女子大生会計士の事件簿!』といういろいろな不正事例が易しく書かれているような本があるのですが、こういう本でイメージを膨らませてから監査論を勉強すると、「こういう不正を防ぐためにこの監査基準はあるんだな」ということがすっと入ってくるようになりました。
――:イメージがつきやすかったということですよね。
笠原:そうですね。やはり簿記と同じで、最初にいかに具体的なイメージをつけられるかなのかなと思いました。
――:細かいところからやるのではなくて、まず大枠で理解して、細かい論点がこういうふうに使われるんだというのをイメージしていったのですね。
笠原:まさにおっしゃる通りで、国見先生もよく講義中におっしゃることでしたけれども、本当にその通りだなと思いました。
――:実際にそれを体現して、こんなに素晴らしい成績で受かっているのですごいですね。問題を解いていて、分からないところはほぼなかったというか、読めば分かるという感じだったのですか?
笠原:けっこう分からない部分はあったのですが、そういうときはインターネットで検索していました。特に簿記はいろいろな人が記事を書いているので、もちろんCPAのテキストはすごく分かりやすいのですが、一方で違った言葉で説明されているのを読むというのもかなり理解には有効でした。
――:違う切り口で説明してくれるというのは、やはり大事ですからね。
笠原:教材で分からなかったら本やネットを利用するなど、あの手この手で理解しようとしました。
――:短答式試験が受かったあと、論文式試験までは実質約3カ月間ということになりますが、時間はないですよね?
笠原:全然なかったです。絶望的なぐらいなかったです。
――:やはり論文式試験のときも、ABC論点のうちAB論点だけまずは取りにいこうという作戦でしたか?
笠原:それは短答式試験以上に徹底してやっていましたね。例えば、租税法は本当にゼロからのスタートだったので、髙野先生の速習講義を使って、本当に重要なところだけを徹底的に叩くというようにしました。会計学の理論や計算も、本当に典型論点というところを中心に勉強していましたね。
――:租税法と統計学は、短答式試験までは勉強していないですから、ゼロベースですよね。そこからある程度合格レベルまで引き上げないといけないので、勉強の時間配分に不安はありませんでしたか?
笠原:ものすごく不安でした。
――:そうですよね。例えば、租税法だけをやっていようと思うと、財務や管理のほうを忘れていっちゃうなとか、そのあたりはどうカバーされていたのですか?
笠原:勉強日誌をつけていたので、基本的に1日1~2時間ずつ均等にやるように管理していました。
――:勉強日誌は、1週間ごと、1カ月ごとなど大枠で作る感じですか?それとも1日ごとに、今日はこれをやったという感じですか?
笠原:1日ごとに何を何時間やったというのをチェックしていって、そうすると自分の進捗が分かるのでチェックをしながら、自分はここが遅れているなというのがあれば、それを重点的にやっていくような進め方をしていました。
――:笠原さんは通信でしたけれども、答練は全部自宅で受けられたのですか?
笠原:答練は論文期に1回だけ受けただけですが、これが非常に有効でした。問題の選球眼と時間配分を養うのに役立ちました。例えば租税法は順位こそ下から2番目だったのですが、A論点の問題はほとんど取れていたので喜んでいました。時間配分についても、時間内で大体何問に手を付けられるかを本番に備えてシミュレーションしました。
――:短い時間で合格されているので、講義もやはり倍速を使われたのですか?
笠原:それが非常に助かりました。周囲のCPAの友人も同じことを言っています。
――:何倍速でしたか?
笠原: 1.8倍が好みでした。細かいんですけれども、割と人によって違うみたいです。倍速を使うと、やはりライブよりも圧倒的に短い時間で消化できるので、私には非常に通信は性に合っていたなと思います。
――:働きながら勉強されていて、いつ退職しようというのは決めていたんですか?
笠原:決めていました。5月に短答式試験があるので、その2~3カ月ぐらい前には辞めようと思っていました。
――:働いているときはどういう職種だったのですか?
笠原:メーカーの研究職でした。
――:まったく会計に関係ない職種ですよね。簿記2級を持っていたというのは、研究職をやりながら何かやろうかなという感じだったのですか?
笠原:これは自己啓発の一環というか、ちょっとやってみようかなぐらいの軽い気持ちでした。やってみたら本当に面白くてはまってしまって、最初は独学で1級でも取ってみようかなと思って少しだけプラスαで勉強したんですけれども、結局は全然分からなくて諦めてしまいました。
CPAのことはテキストプレゼントで知ったんです。それで、ぱらっと開いて勉強してみたんですけれども、とても分かりやすいなと思いました。非常にロジカルなんです。しっかり意義も説明してくれるし、必要があったら図や数値で説明してくれるので、非常に良くできているなと思いました。
――:市販の簿記の教材と比べて、断然良かったということですね。
笠原:全然、比べものにならないです。
――:ちなみに会計士というのは、笠原さんのキャリアプランにはまったく入っていなかったのですか?
笠原:少し意識はしていました。同じ大学の友達が会計士試験に3年ぐらい早く受かったんですけれども、彼も短期合格だったんです。仲も良かったので、一応会計士の存在だけは知っていたところに簿記にはまって、これはいけるんじゃないか、面白いんじゃないかなと思いました。
――:やはりこちらに書かれている通り、インプットのときは自分の声で説明できるかということを重視していたのですね。
笠原:これは特に大事にしていました。先生方も口酸っぱくおっしゃっていると思いますが本当にその通りで、自分の言葉で説明できて、初めてやっと試験で点が取れるということを感じました。CPAのテキストと講義の内容はとても分かりやすいんですけれども、これをさらに自分なりの言葉でまとめ直していました。
問題を解くときもちょっとこだわっていて、YouTubeで簿記の解説をしている先生とかいますよね。あれをイメージして、「はい、じゃあ解いていきます」みたいな感じで、アウトプットのときも、ただ手で覚えるのではなくて、きちんと説明してロジカルにできるかというところにはこだわっていました。
――:では楽しみながら解いていたわけですね。
笠原:これは楽しかったですし、一番こだわったところでもあると思います。
――:短答式試験のときも、回転重視ではなく理解重視で学習していましたしね。
笠原:そうですね。短答式から一貫して理解重視で取り組んでいました。ただ一方で、特に論文期に思ったことですが、いかに理解しても記述式では意外と書けないなというのは強く思ったところです。最初は理解重視で勉強していましたが、どこかでちゃんと暗記しないと記述式は書けないなと感じました。
例えば、概念フレームワークについてどれだけ理解していても、資産の定義を暗記せずに概念フレームワークの文章は書けないと思うんです。勉強の順序としてはまずしっかり理解してから、キーワードの定義をきちっと押さえると強いなと思いました。
――:各科目の勉強方法も教えていただけますか?
笠原:まず財務会計ですが理解を最重視するというのと同じくらい、基礎期の復習の徹底にこだわっていました。
私が受けたのは平成30年第Ⅱ回の短答式試験ですが、財務会計の計算で割賦販売の問題が出て、割賦販売はまったくやっていなかったので仕訳の切り方は知らなかったんです。ただ問題を読んでみると、要するにその期のうちに実現した利益はいくらかというような問題だったので、実現主義を押さえられているとその知識だけで取れるような感じでした。
――:実際に、取れたわけですね。
笠原:そうですね。他には、連結税効果の解消の論点がありました。これも実現主義をきっちり勉強していたおかげで、全然処理は知らなかったんですけれども、実現するということはこういう処理なんだろうなと考えて得点できました。
たまたまだったかもしれないですが、基礎期の内容をがちっと押さえると、意外と知識の応用で本番で初見の問題も取れたりすることもあると思います。
――:管理会計論はどうされましたか?
笠原:やはり基礎期を重視しました。あとになってからだと計算に割く時間もなかなかないし、本番も結局は典型問題の精度勝負になると思います。この間(平成31年第Ⅰ回)の管理会計もとても難しかったそうですが、その場合も結局は標準的な問題を取っているかというところで決まってくると思うので、管理は基礎期の計算が一番大事なのかなと思いました。
あとは梅澤先生のブログで原価計算基準の暗記が短答式では有効という情報を見たので、短答式の直前は原価計算基準を何周もしました。本番は全問正解できたのですが、確かに全科目で一番コストがいいな思いました。時間の無い人は特に勉強するべき箇所だと思います。
――:理論は全部取れていて、計算も7割強取れていますね。
笠原:そうですね、理論で稼いで基本的な計算問題を拾う作戦がうまくはまりました。
――:監査論は、最初はイメージが湧かなかったから実務本を読んでという方法から入ったんですよね。
笠原:はい。イメージを掴んでからは覚えるのも楽になり、監査論の苦手意識がなくなりました。短答式の本番も他科目と同じくA難度を中心に手堅く拾った結果、70点を取れました。
――:企業法はどうされましたか?
笠原:企業法はあまり勉強方法に困ったことはありませんでした。菅沼先生のテキストと講義が本当に分かりやすかったため、これに沿って進めました。
――:企業法も短答式試験で7割取れていますよね。得点している箇所は、AB論点の部分ですね。
笠原:うまくC論点を切り、AB論点の問題を手堅く取れたと思います。勉強方法ですが、菅沼先生の講義とテキストに従って、企業法だけは何回も回転しました。簿記や管理ほど深い理解が必要ないという気もしました。
――:短答対策問題集を回転させたという感じですね。
笠原:テキストと問題集を使って、これは理解よりも回転数勝負でいったようなところです。
――:租税法は、短答式試験のときには勉強しないので、残り3カ月のときにゼロからスタートという感じですね。
笠原:租税法は髙野先生の教えにすべて従いました。
――:ひねりも加えず、自分のエッセンスも加えずにですか?
笠原:ひたすら授業を聴いて、ひたすらコンパクトサマリーを暗記しました。企業法の短答式に次いで回転数を重視した科目でした。租税法は国の思惑で規定される分、財務会計や管理会計ほど理論的でないと思ったので、開き直ってひたすら回転して覚えてしまいました。
結果的に偏差値56ぐらいだったので、典型論点を中心に手堅く取れたと思います。消費税は一問も解かずに全部切ってしまったんですけれども、髙野先生が「法人税の重要なところと所得税で十分ボーダーはいくよ」とおっしゃっていたので、すがるような気持ちでその教えに従いました。髙野先生を信じて重要なところだけを回転したら、確かにボーダーを取れたなというところです。
――:それから、統計学もゼロからスタートですよね?
笠原:一度大学の教養課程で勉強してはいました。
――:そうか、理系だと教養で多少はやりますね。
笠原:全部カバーはしていなかったんですけれども、ゼロではなかったので、統計学は癒し教科でした。
数理的なことは午前中にやるといいと聞いていたので、勉強する順番も意識していました。一番頭が働いている午前中に、財務や統計学などの難しい計算科目をやって、午後に理論や租税法をやっていました。寝る前は暗記物、例えば企業法や租税法の条文をぱらぱらめくって覚えるという感じでした。
――:働きながら会計士になろうかなと迷っている方がけっこういるんです。そういう人たちがやはり不安に思っているのが、受からなかったらどうしよう、今までのキャリアを棒にしてしまったらどうしようということなんですけれども、笠原さんはどのように乗り越えられたのですか?
笠原:受からなかったらどうしようという不安については、現実的な準備をするのが重要だと思います。私の場合は数年働いて300万円貯金して、2年受からなくてもなんとかなるぐらいの蓄えを作ってから辞めましたし、辞めた後どのぐらいお金がかかるかもきちんと計算しました。
なので、受からなくて不安という悩みを抱えている方がいたら、最悪何年かかるかなと予想して、それに見合うだけの蓄えを準備したり、親元に帰ったり、生活の手段を現実的に考えることが一番大事だと思います。
――:そうですよね。勉強していく中で、生活できないとなったら困りますね。
笠原:その通りだと思います。私も貯金したつもりだったんですけれども、思った以上にみるみるお金が減っていくので、かなりストレスでした。ましてやお金を準備していなくて、底をついてしまったら本当にどうしようもなくなるので、現実的な準備をしっかりすることが、まずは大事だと思います。
次にキャリアを棒に振ってしまうかもしれない不安については、どれぐらい会計士をやりたいかを考えればいいと思います。私の場合会計にかなりの愛着を持っていたので、もし受からなかったら、短答式試験合格者採用とか、最悪、会計事務所でバイトしようとか、会計と心中するつもりでいました。
――:今いる地位やポジション、給与も大事だけれども、それ以上に楽しそう、楽しいというほうが大きかったということですか?
笠原:そうですね。なので、キャリアを棒に振るんじゃないかという悩みを抱えている方がいるとすれば、本当にどれぐらい自分は会計士をやりたいのか考えたほうがいいと思います。最悪、受からなかったら会計と心中するかもしれないよという、厳しい状態に置かれたときのことまで考えて、それでも挑戦するかどうかをしっかり考えてみると答えが出てくると思います。
リスクのある挑戦だと思うので、勉強を続けられるだけの蓄えや環境があるか、落ち続けたとしてどのぐらい耐えられるかを考えた方がいいと思います。