登川講師

【デリバティブを理解しよう】「デリバティブの時価」「正味の債権債務」のイメージは明確ですか?

簿記を得意にする上で取引をイメージするということは非常に重要ですが、「デリバティブ」はイメージがしずらい論点であるため、多くの受験生を悩ます論点の一つであると思います。

そこで今回は時価評価正味の債権・債務という概念を明確にしていきます。(デリバティブ自体のちゃんとした説明はいずれまたやります。)

これらの概念がイメージができればデリバティブの会計処理もかなり視界良好になるはずです。

デリバティブの時価とは?

時価評価界の大御所(?)といえば有価証券ですね。有価証券も時価評価しますが、有価証券の時価評価で苦労する人はほとんどいません。

対してデリバティブも決算において時価評価しますが、有価証券と異なりデリバティブの時価評価は苦労する人が多いです。

 

この違いはなんだろうと考えてみると、その原因の1つは「時価」のわかりづらさです。株式は株価という概念がイメージしやすいですが、デリバティブの時価はイメージが非常に難儀なのです

では、デリバティブの時価ってなんなのでしょう?

 

いきなり結論を述べると、

デリバティブの時価というのは、将来の現金増減額の現在価値を意味します。

図1

デリバティブは決済時に損益が生じ、現金が増減します。そしてその割引現在価値がそのデリバティブの時価ということになるのです。つまり、時価というのは「その時点での価値」を意味しますが、デリバティブにとっては将来の現金増減額の現在価値こそが時価なのです。

割引現在価値はDiscount Cash Flowを略してDCFと表現することがあります。

正味の債権・債務とは?

デリバティブでは正味の債権債務という表現が出てきます。これまたわかりづらいです。

が、デリバティブの時価がわかると難しくはありません。なぜなら簡単に言うと正味の債権・債務とはデリバティブの時価評価額だからです。

正味の債権のケース

図2

正味の債務のケース

図3

 

デリバティブでは将来損益が発生(お金がもらえる・払う)しますが、その金額の割引現在価値、要は時価が現在の理論上の債権・債務と考えることができるのです。これを正味の債権・債務と言うのです。

 

ちなみに正味という意味は「余分な部分を取り去った」という意味や「実際の」という意味だそうです。
正味の債権・債務という表現は意味が分かりづらいですが、上記のイメージをつかんでもらえれば問題ないと思います。

<参考>正味の意味について
例えば変動を固定に変換する金利スワップの場合には、理論上、将来「①変動の支払」と「②固定の受取」という2つのキャッシュ・フローが生まれますが、それのDCFを純額にした金額が時価になります。純額、すなわち、正味の金額となるため正味の債権・債務と表現する、とおさえてもいいと思います。
図4

契約締結時点では正味の債権・債務がゼロである理由

デリバティブ契約締結時の仕訳はどうなるでしょう?

これは簿記で勉強する通り、

仕訳なしです。

この理由は、契約締結時点では正味の債権・債務がゼロだからです。この部分も結構わかりにくいですね。

さっきの図を使って説明するとこうなります。

図5

ポイントは契約締結時において、決済時の損益はゼロというところ。

なぜ、ゼロになるのか…それを一言で表現すると裁定取引が働くからです。

金利スワップ(固定受取,変動支払)で考えてみましょう。

<仮に金利交換時の変動金利の支払が5%と予想される場合>

契約①:固定金利の受取が3%
→この場合には、損することが明らかなので契約はされません

契約②固定金利の受取が8%の場合
→この場合には、逆にスワップを引き受けると損するため誰も引き受けてくれません。

つまり、結局契約締結時において損得が出るとわかっている契約はそもそも成り立たないのです。逆に言うと、契約締結時の契約条件は損得なしの状態なのです。

契約締結時は損得なしの状態なので、仕訳もなしになるのです。

時価が変動する理由

契約締結時には損得なしでも、その後状況は色々変わります。

契約締結時:金利スワップ(固定金利5%受取、変動金利支払)

決算日(翌日):時価は500円

簿記の問題っぽくしましたが、この問題文の裏側を説明します。

本問は契約締結時において、固定金利5%だと損得なしの契約ということになります。

しかし、あくまでもこれは契約締結時点での話です。そのため、その次の日には「やっぱり変動金利は今後下落しそうだ」という風になるわけです。(最近ではマイナス金利がとか、円高進行とか、ありますが、こういう諸々の事情で日々将来の予想は変化します)

このように状況が変わっても、「固定金利5%受取、変動金利支払」という契約条件は変わりません。ということは、予想が当たるという前提を置くと、変動金利の下落により、金利交換時に支払う変動金利は少なくなるためこの契約は得する契約となります。

よって、決算日において正味の債権を認識しようということになるのです。

 

以上が、デリバティブの時価に関する話です。イメージができやすいように簡単に説明しましたが、実際にはもっともっと複雑な世界ですので本物のデリバティブは本記事ほどシンプルではありません。ただ簿記を理解する上では本記事の内容程度をイメージできていれば問題ないためご安心ください!

登川講師の個人サイト『会計ノーツ』はこちら!

********************
CPA会計学院 財務会計論講師
登川雄太
ツイッターはこちら

このブログがみなさんに気付きを与え,お役に立つことができますように。


受講生の主な就職先

資料を取寄せる(無料)  無料説明会を予約する