
平成28年公認会計士試験 第Ⅰ回短答式試験 企業法の所感 (菅沼講師)

こんにちは!
企業法専任講師の菅沼です。@suganuma_cpa
H28年第Ⅰ回短答式試験 企業法の所感
みなさん短答式試験お疲れ様でした。
企業法について振り返っていきましょう。
まず,合格点ですが,14問正解の70点と考えております。
問題数ですが,監査論と同様に18問から20問に増加しております。
ただ,計算科目と違って,問題数が受験生に与える影響は少ないと思いますので,問題はないでしょう。
次に,出題範囲ですが,問題数が20問と増加したにもかかわらず,株式からは1問しか出題されておりません。また,組織再編行為等からの出題が3問と多くなっているという点が特徴的です。
難易度は,商法(問題1,問題2)と金融商品取引法(問題19,問題20)からの出題の難易度が高くなっております。その結果,点数が伸び悩んだ受験生が多かったのではないでしょうか。
これに対して,会社法からの出題については簡単なものが多かったため,会社法からの出題(問題3~問題18)をいかに落とさずに得点できたかが勝負となるでしょう。
ピックアップ解説
以下,何問かピックアップして解説していきます。
問題1
商号登記に関する問題です。アとイの肢を冷静に誤りと判断できたかどうかが正答を得るためのキーポイントでしょう。
アの肢では商法上登記が義務づけられていない事項が登記された場合の変更義務が出題されました。そもそも,商法上登記が義務づけられていない事項(相対的登記事項)の具体例があまり思い浮かばないと思いますが,具体例を挙げるとすれば,個人商人(小商人を除く)の商号登記です。商法11条2項において,「商人は,その商号の登記をすることができる」とされております。つまり,個人商人が商号を登記するか否かは任意とされているわけですが,これを登記した場合を想定して頂ければと思います。つまり,登記していた商号を変更した場合に,変更の登記をする義務があるかが問われているのです。
この点,登記してある商号が変わっているのに変更の登記義務がないとなると,実際の商号と異なる登記を許容してしまうことになるので,妥当じゃないですよね。したがって,変更の登記義務は当然あるわけです。
次に,イの肢です。「登記すべき事項は,登記をすることにより事実と推定される」という問題ですが,言い換えると不実の登記をしてもそれは事実と推定されますか?という問題です。そもそも,商業登記の効力は登記された事実が存在することを前提としているので,登記の基礎にある事実が存在しなければ,登記がなされても何の効力も生じません。ですが,この原則を貫くと,不実の登記を信頼した者が不測の損害を受けるおそれがあるため,不実登記の効力の規定(商法9条2項,会社法908条2項)が設けられておりますが,法律上,事実が推定されるものではありません。
問題2
商行為に関する問題です。エの肢については正誤判断が難しいため,エの肢以外で,正答にたどり着く必要がある問題でしょう。
気になる方もいると思うので,エの肢について解説します。エの肢では,商人間の留置権が出題されました。商人間の留置権が適用される要件として,「目的物がその債務者との間における商行為によって債権者の占有に属したものであること」が求められます。たしかに,目的物を占有する原因行為は,商人間の行為である必要がありますが,被担保債権が生じた行為である必要はありません。すなわち,被担保債権が生じた商人間双方のために商行為となる行為以外の商人間の行為を原因として債権者が占有したものであっても,商人間の留置権が適用される場合があるわけです。
また,目的物には有価証券も含まれるため,その点についても誤りといえるでしょう。
問題4
株式会社の設立に関する問題です。
エの肢では,現物出資財産等の不足額填補責任が出題されました。
当該責任を負うのは,発起人と設立時取締役です。設立時監査役は負わないため注意が必要です。
この問題については,テキストに掲載されているフローチャートが役に立つと思います。
現物出資者である発起人,財産引受けの譲渡人である発起人は,設立事務を行う者でありながら,いわば売主の地位にあり不当な利益を得ているため,どんな場合であっても無過失責任とされております。
それ以外の発起人および設立時取締役については,検査役の調査を経た場合を除いて,発起設立においては立証責任が転換された過失責任,募集設立においては無過失責任です。本問は募集設立なので,検査役の調査を経ていないのであれば,職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合であっても,責任を負います。
問題19
金融商品取引法上の発行市場における損害賠償責任に関する問題です。
本問は,問題文から流通市場における損害賠償責任については考慮しなくてよいということを読み取ることができれば,正答を導くことができた問題です。
まず,アの肢についてですが,届出者の責任は無過失責任ですので誤りとなります。次に,イの肢ですが,発行市場における責任ですので,募集または売出しによらないで取得した者は含まれないことから誤りと判断することになります。
それでは,今後,短答式試験を受験される方に向けて,学習方針を説明していきたいと思います。
今回の短答式試験においては,最高裁判所の判例が2肢出題されています。前回は出題されていませんが,昨年2014年12月の短答式試験では1問(4肢),2014年5月の短答式試験では1肢,判例が出題されているため,今後も何肢かの出題は予想されるでしょう。しかし,あくまで出題の中心は条文の内容であることから,まずは条文の内容をマスターすることを優先して学習してください。
そのうえで,短答式試験で合格点を取るために重要な視点は,難易度Aの問題を取りこぼさないことです。今回も,難易度の高い問題はありましたが,難易度Aの問題をしっかりと得点できれば,合格点である70点以上を取ることはできたはずです。
そのためには,まず,基礎的な箇所,重要性が高い箇所をおさえることを最優先にしてください。ここで大事なのは,おさえるレベルを間違わないことです。すなわち,短答式試験で出題された場合に正しく正誤判断できるレベルでおさえるということです。テキストや短答問題集を学習する際も,今より高い精度でインプットすることを心掛けてください。
「基礎的な箇所,重要性が高い箇所を精度高くインプットする」
では,今年最後のブログになるかもしれないので,毎年恒例,言っておきます。
「よいお年を!※」
※「よいお年をお迎えください」の略と解されます(通説)。その意味は,「大晦日までを無事に過ごし,よい新年を迎えてください」,つまり,「年内の無事」と「よい新年のスタート」を相手のために祈る挨拶ということですね。これに対して,「よいお年をお過ごしください」の略と解する説もあるそうです(少数説)。意味は基本一緒ですが,この説は「年内の無事」を特に重視しているということでしょう。年内を無事に過ごさないと,よい新年のスタートは迎えられないので,後者の少数説も結構好きですが,常識がないなんて思われても嫌なので,略さず言うときは,やはり通説どおりが無難でしょう。では,みなさん,よいお年をお迎えください!