
平成28年公認会計試験 第Ⅰ回短答式試験 管理会計論の所感 (梅澤講師)

平成28年公認会計試験 第Ⅰ回短答式試験 管理会計論の所感
合格点は65点程度です。最速の計算方法の説明もしています。
管理会計論CPA専任講師の梅澤です。@umechan_cpa
今回は,先日行われた短答式試験について簡単に所感を述べていきたいと思います。
出題の形式・目標点について
昨年12月の短答式試験と同様に,16問での出題となりました。出題構成は,理論が5点×8問=40点,計算が7点×4問+8点×4問=60点と,多少の変更があります。特に原価計算基準から4問の出題があったことは驚きました。問題2の計算問題についても原価計算基準を押さえていないと分類ができないものとなっており,原価計算基準の重要性が増しています。
一方,問題の難易度につきましては,昨年12月試験よりも非常に易しくなりました。具体的に問題の難易度は,正答したい問題であるA問題が9問,正答可能な問題であるB問題が5問,正答が難しいC問題が2問です。具体的には,A問題から50点程度,その他から15点程度得点して頂きたいため,65点程度得点して頂きたいと考えております。
今回は,Aランクの問題の割合が多く,かつほとんど時間を使わずに正答に辿り着いてしまう計算問題もいくつか散見されました。そのため,問題の取捨選択を上手に行い,より多くのAランクの問題を得点していくことが非常に重要でした。人によっては80点以上の点数を得点できた方もそれなりにいたのではないでしょうか?
何度もお伝えしているところではありますが,一つの問題に固執せずに,より簡単な問題があるのではないかという気持ちで,次の問題に移れたかどうかが何より重要だったといえるでしょう。
各問についての講評,最速の計算方法,重要な判断のポイント
問題1 理論 原価計算基準 材料費会計を中心とした費目別計算
非常に平易であり,確実に得点してほしい問題でした。計算問題を解く際に関わるものばかりなので,丸暗記というよりは普段の計算に照らして得点できるものになります。
問題2 計算 費目別計算の原価分類問題
製品との関連による分類の定義,原価の要件,総原価の定義,この辺りが明確でないと苦しかったのではないかと思います。“ほとんどの受験生が知ってはいるけど対策は不十分”といった論点になります。過去問でも出題されたことのあるパターンの問題なので,今後受験される方は,原価分類問題には慣れておいた方が良いと思います。
問題3 理論 原価計算基準 個別原価計算における仕損の処理
これは問題1と同様に,普段の計算に照らし合わせて考えれば,丸暗記をしていなくても得点できる非常に平易な問題となります。ひっかけ方も典型的,かつ出題実績も高い基準なので,必ず得点して頂きたい問題となります。
問題4 計算 部門別計算 簡便法の相互配賦法
こちらも非常に平易となります。なお,資料の部門費配賦表を見ますと,すべての配賦項目について,どちらかの製造部門への配賦額は示されています。これを利用して製造部門間の補助部門費の配賦基準の比率だけ考えて,製造部門費が算定できます。素直に解く必要はまったくありません。具体的には,第1次配賦も第2次配賦も,動力部門費は3,840馬力:2,560馬力,修繕部門費は140時間:100時間,工場事務部門費は1920時間:1,280時間の比率になっているはずですので,例えば,第2次配賦の機械加工部門への動力部門費の配賦額は,組立加工部門への配賦額の10,500円÷2,560馬力×3,840馬力=15,750円と算定できます。補助部門相互の用役授受に関する資料は無くても解けるのです。この方法で計算してもらえれば多少の時間節約になったと思います。比率で考える癖は,計算構造理解にも役立ちますので,是非普段から意識して頂ければと思います。
問題5 計算 工程別総合原価計算 異常仕損費の処理 追加材料
基本的には得点しやすい問題でした。しかしながら,異常仕損品が正常仕損費を負担するか否か(原価発生原因主義を重視するか,正常性概念を重視するか)についての指示がありませんので,この点について戸惑った受験生も少なからずいたと思います。このような場合の判断基準としては,まずは出題実績的に,異常仕損品も正常仕損費を負担し得る,原価発生原因主義を重視する考え方で試してみるようにしてください。そのうえで,選択肢に解答が無い場合(もしくは,解答の選択肢や資料から端数が出なそうなのにも関わらず,端数が出てしまった際はその時点で)には,正常性概念を重視して異常仕損品に正常仕損費を負担させない方法で解くようにしてください。なお,今回は平均法ですので,月末仕掛品原価を算定することなく,完成品原価を直接算定するようにしましょう。
問題6 理論 原価計算基準中心とした総合原価計算
原価計算基準の中でも,やや細かい部分が問われていますが,それでもやはり原価計算基準ですから,得点してほしい問題となります。副産物,連産品,等級製品の共通点や相違点といった典型的な比較理論部分も問われていますが,ここはしっかりと対策していた方も多かったことと思います。なお,度外視法と非度外視法の計算結果の相違に関しては,原価計算基準とは関係の無いところにはなりますが,計算構造を理解する上でも非常に重要なのできっちり対策しておきましょう。
問題7 計算 仕損が途中点発生の標準原価計算
非常に平易であり,かつ時間もほとんどかけずに得点できるサービス問題となります。必ず得点しましょう。なお,このレベルの問題であれば,ボックスの下書きもせずに,電卓を叩くだけで得点できるレベルにまで慣れておいた方が良いでしょう。
問題8 理論 原価計算基準 標準原価計算
出題実績も高い標準原価計算の原価計算基準問題です。ポイントポイントを押さえることで容易に得点可能です。今年の原価計算基準は,誤りの記述の作り方が,用語を一部置き替えるだけ等の簡単な方法が多い印象です。一部の用語を入れ替えられても分かるような対策を重点的にしておくと良いでしょう。
問題9 理論 管理会計全般
管理会計の目的や機能と言った基本的な内容と,責任センターや価値連鎖といった用語の意義が問われています。なお,用語は知っているか否かですので,一般的なものだけで結構ですので,定義を中心に押さえておきましょう。
問題10 計算 管理可能利益,営業利益の算定
20秒で解ける問題です。まず,営業利益をすぐさま10,800,000円と算定して,解答の選択肢を見ると1か5と分かります。さらに,1は管理可能利益が営業利益を下回っていますので,この時点で1は誤り,結果5が正解と分かります。あまりに簡単に解けすぎて,逆に不安になってしまいますが,こういったサービス問題も出題されますので,試験中は素直に考えて良いと思います。
問題11 理論 資金管理
資金管理について全般的に問われています。正答率は高く出ると思いますが,少し悩んだかも知れません。アとエはすぐさま判断できたと思いますが,イとウについては,一般的な感覚で選んで頂く必要があります。こういった問題について,悩んでも時間を浪費するだけですから,思い切って感覚で解答を決めてしまうのが良いでしょう。
問題12 理論 原価管理
原価維持(標準原価計算),原価改善,原価企画について問われています。アとエについてはすぐさま判断でき,1と2に絞れると思います。イについては維持という表現が気になって誤りと判断してしまった方もいらっしゃると思います。しかし,特段間違った内容はありませんので,ここは一旦△としておきたいところです。ウについてですが,何を言ってるのかがいまいち分からない文章となっており,判断が難しかったと思います。しかし,標準原価計算が製品開発のスピードに対応させた原価管理技法になっていることなど,聞いたことが無いはずですし,そうであれば標準原価計算の限界なんていう論点も出てこないはずと考えて頂き,誤りと判断してほしいところです。
問題13 理論(一部計算) 設備投資経済性計算
資金制約下における正味現在価値法と内部利益率法の投資案の選択,正味現在価値法及び内部利益率法の理論が問われています。
まず,アについては甲+丙の組合せVS乙といった観点で考えて誤りと考えられたでしょう。
イについては甲+丙の組合せVS乙といった考え方はせずに,内部利益率が高い順に素直に採用ということになりますので,正しいと判断します。なお,内部利益率法はそもそも組合せで評価するものではないですので,高+丙の組合せで考えてしまい少し悩んだ方もいたかもしれません。
ウの再投資収益率の仮定は典型理論ですので確実に正しいと判断して頂きたいです。
エについては“内部利益率自体の算定”及び“代替案の順位づけ”にはハードルレートは不要ですが,“代替案の採択”にはハードルレートを上回っている必要があることから誤りと判断してほしいところです。内部利益率法はハードルレートが不要という曖昧な押さえ方をしていた受験生は,ここを誤りと判断してしまったことでしょう。
問題14 計算 活動基準原価計算
典型的な製造間接費の配賦計算と,ABCによる配賦計算の相違が問われています。一見,計算量が多く時間がかかるように感じますが,考える時間はほとんどかからないと思います。配賦基準及び配賦率を丁寧に算定し,電卓の機能をフルに使ってすばやく計算し,確実に得点して頂きたい問題となっています。
問題15 計算 業務的意思決定
余剰生産能力を利用した追加生産の可否の意思決定です。さほど難しくはないのですが,試験中の緊張状態では,資料(特に資料4)の読み取りで焦ってしまう方もいたのではないでしょうか?業務的意思決定は資料の読み取りがすべてですので,特に落ち着いて計算して頂く必要があります。
問題16 計算 事業部制における業績評価
①取得原価に基づく建物減価償却後のROI及びRIから,②取替原価に基づく建物減価償却後のROI及びRIの算定が問われています。②が意味しているところの読み取りに時間がかかりますので難易度は高めといえるでしょう。解答作業としては,①のROIから減価償却後の事業部利益を算定し,これに①の減価償却費を加えて,減価償却前の利益を算定します。これに②の減価償却を減算して,②の事業部利益を算定することになります。落ち着いて計算すれば解答可能ではありますが,飛ばしても良い問題だったといえるでしょう。
今後の学習について
今後,短答式試験を受験される方への学習方針を簡単に述べたいと思います。
まず,計算については,これまで原価計算論点は時間のかかる問題が多かったのですが,これだけ軽い問題が出題されるとなると,とにかく原価計算論点を極めることが得策かと思います。もちろん,バランス良く学習すべきではありますので,管理会計論点を軽視するわけではありません。しかし,本試験で初めて見るような指示,問題の形式となりやすいのは管理会計論点です。原価計算論点については,時間制約と言う意味で得点しにくい問題の出題はありますが,見たことも無い指示や形式での出題は少ない傾向にあります。今後も同様の傾向が続くとは限りませんが,少なくとも,原価計算が得意であることは優位性を発揮しやすいと思います。“原価計算を制するものは管理会計論を制す”ということになるのではないでしょうか。
続いて,理論ですが,しっかりとした理論の対策講義を受講しているのであれば,原価計算論点は原価計算基準をベースに,管理会計論点はテキストをベースに,バランス良く押さえていけば良いと思います。ただし,原価計算基準の出題が増加していますが,これはしっかりと対策すれば,必ずすべて得点できますので,費用対効果が増していると思われます。丸暗記は非効率ですが,ひっかけポイントや注意点をベースに押さえていけば必ず得点できます。今回に限っていえば“原価計算基準を制するものは管理会計論を制す”といえるような試験でしたので,原価計算論点に多少重きを置いた学習をしていくと良いと考えています。