
トヨタの種類株式発行について⑤ ~AA型種類株式発行の目的~
こんにちは!
企業法専任講師の菅沼です。(@suganuma_cpa)
トヨタの種類株式発行について④ ~AA型種類株式発行の目的~
今回は,AA型種類株式発行の目的について書いていきたいと思います。
長かったトヨタ種類株式編最後の回です!
AA型種類株式の発行の目的は,「安定株主の確保」といえます。
【用語】
安定株主とは,短期的な会社の業績や株価に左右されずに,長期に渡って株式を保有する株主のこと,つまり,短期的な業績の変動によって株式を売却することがない株主のことです。
1.株式の持ち合いのメリット・デメリット
日本においては,安定株主の確保や取引関係の維持を図るために,株式の持ち合いが活発に行われてきました(相互保有株式)。
株式の持ち合いとは,企業間において相互に株式を持ち合うことをいいますが,これにより短期的な利益ではなく,長期的な企業の成長を目指すことができることや資本関係を持つことにより継続的な取引関係を維持することができ,敵対的買収の防衛策にもなるというメリットがあります。
しかし,目的が「安定株主の確保」や「取引関係の維持」である以上,よほどのことがない限り経営に口出しをしない,すなわち,議決権は経営者の提案する議案に賛成する方向で行使されるのがほとんどとなってしまい,経営に対する監督が有効に機能しないという指摘が従前から強くあります(いわゆる「物言わぬ株主」になってしまうってことです)。
また,株価の上昇によって売却することは予定されておらず,配当利回りに関係なく保有し続けるという関係上,資本効率を重視してないといわれております(「もっと利益率のいい投資があるでしょ!」ってことです)。
2.株式の持ち合いの解消とこれに代わる方策
海外投資家の株式保有割合が増してきているため,資本効率を重視した経営とその経営に対する監督の強化,すなわち,コーポレートガバナンスの強化が求められており,トヨタに限らず,株式の持ち合いは解消している傾向にあります。
また,今年の6月から適用されているコーポレートガバナンス・コードにおいても,投資以外の目的で保有する株式(「政策保有株式」といわれる)に関する開示がより求められており,株式の持ち合いに対する風当たりは今後一層強くなると考えられます。
【用語】
コーポレートガバナンス・コードとは,金融庁と東京証券取引所が事務局となってまとめたコーポレートガバナンスに関する基本的な考えであって,上場規則によって上場企業に尊重が求められるものです。
そこで,株式の持ち合いの解消が進むなか,これに代わる安定株主の確保として注目されるのが長期保有志向の個人株主の拡大であり,これを達成するための方策として取られたのが,AA型種類株式の発行ということです。
3.最後に
AA型種類株式は議決権制限株式ではないので議決権があるわけですが,AA型種類株式を購入する投資家層が議決権に興味があるかという点についてはかなり疑問を感じます。
「株式の持ち合いを解消し,長期保有志向の個人株主へ」
形式は違っても,それが同じ目的,すなわち,「物言わぬ株主」の確保であるならば,コーポレートガバナンスの観点からすると,実質的には何も変わらないといえるのかもしれません。
そもそもコーポレートガバナンスって何だって話にもなりますが,「企業の経営に対して牽制と監督を効かせていく仕組み」って感じですかね。
つまりコーポレートガバナンスの強化ということは,平たくいえば監督機能を強化することだと思うのですが,監督する対象の「経営」に対する考え方がアクティブな投資家と企業側で少しズレているからこそ,様々な問題が発生しているのかなと思います。
健全な経営をするという点でズレはないと思いますし(そう思いましょう),企業価値を向上するという点でもズレはないと思いますが,この企業価値の考え方にズレがあるのではないでしょうか。
極端ですが,
投資家にとっての企業価値の向上が資本コストを上回るキャッシュインを生み出すことであるとすれば,
企業側にとっての企業価値の向上は,それだけではなく,良い製品を作る,売上高を増やす,人的資源や設備を充実させるといった広い概念で捉えている
こんな感じでしょうか。
ここがズレると,監督,すなわち,コーポレートガバナンスの在り方についても当然考え方が変わってくるので,法律や規則をいくら整備しても解決するのは難しいような気がします。
物言う株主が増えてくると投資家の目線を踏まえた経営がより求められてきますが,
上場企業はとんでもなく大きな社会的責任がありますので,
その責任を果たし,健全な経営を確保したうえでの投資家への歩み寄りが今後一層求められますね。