
トヨタの種類株式発行について③ ~種類株式の内容の詳細とポイントその2~
こんにちは!
企業法専任講師の菅沼です。(@suganuma_cpa)
トヨタの種類株式発行についての第3弾です!
前回は剰余金の配当および残余財産の分配に関して内容の異なる種類株式と譲渡制限株式について書きましたので,
今回は取得請求権付株式と取得条項付株式について書いていきます。
1.取得請求権付株式について
取得請求権付株式とは,ざっくりいうと株主が株式会社に対して取得を請求することができる株式,つまり,株主が会社に対して買い取ってくれと請求する権利が付いている株式のことです。
これを発行する場合は,定款に,取得の対価(種類や価格等)と取得を請求することができる期間をあらかじめ定める必要があります。
ここで,AA型種類株式は,実質的に「元本保証」,5年後から普通株式に転換する権利が付いていると言われますが,これを実現するために利用しているのがこの取得請求権付株式です。
(1)実質的な元本保証
AA型種類株式を有する株主は,発行から5年後より,発行価格でトヨタに株式を買い取ってもらうことができます。これをもって,元本保証と言っているわけです。
この場合は,定款に取得対価は金銭であり,取得価格は発行価格と同額である旨,取得期間を5年後から開始する旨を定めることになります。
ただ,トヨタですので考えにくいですが,元本保証とはいっても,取得請求時点における分配可能額が足りない場合は請求することができませんし,破たんした場合も同様に元本が保証されるわけではなく,前回書いたとおり,普通株式に優先して残余財産の分配を受けるのみとなります。
このように,会社存続中に期間が経てば会社に取得してもらえるわけですから,満期が来れば償還される社債と類似しますよね。これも「株式の社債化」です。今回の最後で説明する取得条項付株式も同様のことが言えます。
(2)普通株式に転換する権利
AA型種類株式を有する株主は,発行から5年後より,トヨタに対して取得請求をすることによって,AA型種類株式を普通株式に転換することができます。
この場合は,定款に取得対価は普通株式であり,取得期間を5年後から開始する旨を定めることになります。
AA型種類株式の発行価格は,発行時点における株価の126%~130%高い金額(つまり3割程度高い金額)です。すなわち,手数料等のコストを無視した場合,5年後に普通株式の株価がAA型種類株式の発行価格を上回る場合は,普通株式に転換して市場で売却することにより,AA型種類株式の発行価格とその時点における普通株式の株価の差額分だけ売却益(キャピタルゲイン)を得ることもできます。
2.取得条項付株式について
取得条項付株式についても,まずざっくりと説明します。取得条項付株式とは,ある一定の日や事柄が生じた時に株式会社によって強制的に取得されてしまう株式です。
取得時点の定め方ですが,
① あらかじめ定款で定めておく(例えば,株式上場の申請時といった条件型の定め方や平成××年×月×日といった期日到来型の定め方が考えられます),
② 発行後に取締役会で定める
という2つのパターンが認められます。
AA型種類株式は,発行から5年経過後,取締役会の決議によって定めた日をもってトヨタが強制的に発行価格で取得できる旨が定められています(対価は金銭です)。
すなわち,AA型種類株式の取得時点の定め方は,上記でいうところの②(発行後に取締役会で定める)のパターンですね。
もちろん,この取得の決定ができるようになるのは,先ほど説明した取得請求権を行使することができるようになった後の話ですので,普通株式の転換請求をする機会が全く与えられないまま強制取得されるということはないようです。
普通株式の株価や配当利回りとの関係でトヨタによって強制的に取得されてしまうという点も忘れてはいけないポイントですね!
以上,種類株式の内容の詳細とポイントを説明させていただきました。
次回は,AA型種類株式の性質について,会社法を学習するうえで典型論点である「株式と社債の比較」とからめて書きたいと思います!