登川講師

東芝の不適切会計を題材に工事進行基準を理解する! 登川講師(簿記)

こんにちは、CPAで公認会計士講座の講師をしている登川(@nobocpa)です。

近ごろ東芝が不適切会計を行ったというニュースが話題になっています。

様々な問題が浮き彫りになってきていますが、その中でも、とりわけ「工事進行基準」に関する影響が大きいようです。

具体的には「工事原価の総額を意図的に低く見積もった」とのこと。

そこで、今回はこの点について解説をしていきます!Ï

1.進行基準とはそもそも何?

本来売上収益(儲け)は実際にモノを売らないと計上できません。
しかし、進行基準はモノを売る前から収益(儲け)を計上してしまうという特殊な方法です。

具体的には、建物の建設や、ソフトウェアの開発等で工事進行基準は使われており、建設や開発が完了していなくても、完成に近づいた分だけ売れたことにしようという考え方にもとづき財務諸表を作成します。

よりイメージができるように、以下の具体例を用いて説明します。

以上からわかるとおり、「当期にどれだけ完成に近づいたか」は「かかる総コスト(工事原価の総額)の内、当期にかかったコストの割合」で計算します。この完成に近づいた割合を工事進捗率と言います。

この工事進捗率にもとづき損益計算書を作成すると以下のようになります。

このように、各期の売上収益は工事進捗率にもとづいて計算されるのです!これが工事進行基準の考え方です。(売ってないけれど売上を計上していますね。)

2.原価総額を低く見積もるとどうなる?

上記の計算方法でわかるとおり、工事進捗率の計算のベースとなるのは「工事原価の総額」です。しかし、これは完成するまで正確な金額はわからないため、見積りに頼らざるを得ません

逆を言えば、意図的に操作することが可能となります。では、今回東芝の事例であった「工事原価の総額を過小に見積もる」と損益計算書にはどのような影響が出るのでしょうか?

このようになります。一目瞭然ですね。進捗率が跳ね上がっています!

さらに、その結果、×1年度の損益計算書は以下のようになります。

上記から判明することは以下の3点です。

①売上収益は本来の450億よりも増加し、720億になっている!

②対して、工事原価(費用)は200億なので変わらない!

③よって、売上収益が増加した分のまるまる全額が利益の増加になっている!

つまり、工事原価の総額を意図的に低く見積もると、利益を過大に計上することができるのです!

当然、こんなことは許されないため、いわゆる粉飾決算になります。

3.粉飾決算の副作用!

粉飾決算には必ず副作用が伴います。つまり、利益を過大にする分だけ、必ずどこかにしわ寄せがいくのです。では、今回の例ではどこにしわ寄せが行くのでしょうか?

翌期の×2年度に注目してみましょう。

なんと、×2年度は打って変わって赤字になってしまっています!

それもそのはず。当初に工事原価の総額を250億と意図的に低く見積もったとしても、×2年度の完成時には工事原価の総額は400億に確定してしまいます。

その結果、2年間合計で売上総利益は500億(900億-400億)となり、×1年度に520億も利益を計上してしまった結果、×2年度は△20億になってしまうのです。

これらをまとめると以下のようになります。

<工事原価の総額を意図的に低く見積もった場合のまとめ>

・工事進捗率が高くなるため、完成するまでは利益を過大に計上できる!

・しかし、工事が完成すると工事原価の総額が確定するため、完成時に一気にしわ寄せがやってくる!

・つまり、利益を先取りしているだけにしか過ぎない!

どうでしょうか?

進行基準は適切に適用すれば、会社の実態を正しく表すことができる画期的な会計処理です。

しかし、見積りを意図的にいじることで財務諸表数値を操作することができてしまうという負の側面もあります。

今回の記事を通じて、進行基準およびそれを用いた粉飾について理解が深まってもらえれば幸いです!

(関連記事)
粉飾の負のスパイラルは以下の記事でも解説しています。
売上原価の算定を理解する!~期末在庫の水増しで利益は増える?~ 登川講師(簿記)

【簿記の細道~成果小話】

ノボ「進行基準は、完成してなくても工事が進んだ分だけ成果をあげる方法、ということだな。」

ボブ「それはまるで、テストを受けていないのに、勉強しただけで点数をもらえるみたいな感じですね。4時間の勉強でマスターできる論点を2時間勉強したら50点もらえるみたいな!とてもいい考え方ですね。ぜひとも試験にもこの考え方を採用してほしいものです!」

ノボ「ボブ!進行基準を適用するためには、進んだ分だけ確実に成果があがるという要件が必要なんだ。ボブが2時間勉強したとしても点数がとれるという成果があがるかどうかは不確実だろう。だとしたら、試験に進行基準なんて認められないぞ!勉強の“セイカ”は”セイカイ”することだ!」

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CPA会計学院
財務会計論講師
登川雄太(Twitter)

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