
前回のブログでクレジット売掛金の会計処理を扱いました。
「日商簿記検定2級の試験範囲に加わったクレジット売掛金を理解する!」
その後このような質問を受けました。
「支払手数料は損益計算書ではどの表示区分に計上するんですか?」
なかなかするどい質問です。
財務諸表の結論までしっかり考えるからこそ思いつく質問だと思います。
そこで、今回は表示区分について考えていきましょう。
早速ですが、さすがに特別損失になるはずはありません。
ですので「販売費及び一般管理費(販売費)」もしくは「営業外費用」になりそうです。
そこで両者のどちらに計上されるのか?を検討していきます。
(続きを読む前に自分で一回考えてみましょう!)
1.販管費である論拠
(1)クレジットカードのメリット
そもそもお店が手数料を払ってまでクレジットカードで販売する理由は何でしょうか?
以下のボブとノボのケーススタディを見てみます。
**************************
ボブ:クレジットカードを持っていない
ノボ:クレジットカードを持っている
ボブ「あの服かっこいいな!買っちゃおう…あ、でも今日お金持ってないんだ!じゃあ、あきらめるしかないな…」
ノボ「あの服かっこいいな!よし、買おう。おっと!お金が足りないぞ。でもクレジットカードあるから大丈夫だ。すいませーん!これください!」
**************************
このケーススタディから分かる通り、「クレジットカードというのはお金がなくても買い物ができる」すなわち「購入する機会を逃さない」という点に購入者側のメリットがあります。
逆に考えると、販売者側からすれば、クレジットカードで販売することで「販売機会を逃さない」というメリットがあるということがわかります。
つまり、販売者にはクレジットカード手数料を払ってでもクレジットカードで販売する理由があるのです。
(注)クレジットカード手数料のことは一般的に加盟店手数料と呼ばれます。
(2)クレジットカードの手数料の性格
では、販売者が支払う手数料はどのような性格をもっているのでしょうか?
上記の点に注目してみると、
?クレジットカード手数料を払って
②売上を増やしている
と捉えることができます。
つまり、クレジットカード手数料は販売を促進するための費用(売上と関係する費用)という性格をもっているのです。
(3)支払手数料の計上区分
これでわかりました。
売上と関係する費用という側面から考えると、手数料は販売費の区分に計上すべきということになるのです!
続いて、営業外費用になる可能性はないのか?考えてみましょう。
2.営業外費用である論拠
(1)クレジットカードの別の側面
クレジットカードを以下のように考えてみます。
前回の取引図をおさらいしてみると、

②クレジットカード会社は10,000円から500円差し引いて9,500円を当社に支払う
③後日、クレジットカード会社は顧客から10,000円を回収する
という取引になっています。
この取引、クレジットカード会社視点でみると、下記のような取引に似ていると思いませんか?
②10,000円の貸付を行い利息500円差し引いた9,500円を支払った
③後日10,000円の返済を受けた
つまり、クレジットカードの取引は資金の貸し借りと似ているということがわかります。
だとすると、500円部分は金利の性格をもっている!ということがわかります。
(2)金利の性格からわかる計上区分
これでわかりました。
会計では金利の性格をもった費用は売上に直接関係ないという立場を採用しています。
そのため、この視点から考えると手数料は営業外費用に計上すべきとなるのです!
3.実際の計上区分
(1)有価証券報告書を調べてみた!
ん?と思うかもしれませんが、
このように、実はどちらからも考えることはできます。
仮に理論問題で聞かれた場合には、どちらで書いてもある程度点数はもらえるのではないでしょうか?
ただ、実際はどっちなんだろう?と気になるので調べてみました。
クレジットカード取引が一般的なのは飲食店なので、株式会社グローバルダイニングの財務諸表を見てみました。
(グローバルダイニングはラ・ボエムやモンスーン・カフェなどカジュアルな飲食店を運営する会社です。気楽に入れるのでよく利用しています笑)
すると、ありました、ありました。
信販手数料という名称で販売費の内訳の中に入っておりました!
(2)結論
つまり、実務では営業外費用ではなく、販売費の区分に計上しているということです!
この理由ですが、実はこの手数料、金利の性格よりも販売促進としての性格が強いのです。
(この後の「簿記の細道」で説明します)
そのため、販売費として扱われているのでしょう。
どうでしょうか?
「クレジットカードの支払手数料は販売費」と覚えるだけだと理解は深まりません。
今回のように、深く考えることで会計的思考が養われていきます。
ぜひとも、会計的思考を身につけてほしいと思います!
【簿記の細道~販促小話】
ボブ「販売促進としての性格とか金利の性格とか、そのものの性格をしっかり考えることが会計的思考を養う上で大切なんですね。答えを先にみちゃうと考えなくなるので、まずは考えることが大切ですね。(僕はすぐに答えみちゃったんだけどね。)」
ノボ「そうだな。あと、上記の他にも、販売側からすると代金をクレジットカード会社から一括して受け取ることができるため代金の回収の負担が減るというメリットもあるんだ。そう考えると、クレジットカードの手数料には、クレジットカード会社の決済システムの利用料という性格も入っているということがわかる。つまり、手数料は一概に金利の性格とは言えないため、やはり販売費に含めるべきといえるな。ただ、ここまで考えることは難しいから、基本は販売促進のための費用だから販売費でOKだ。どちらにしてもまずは考えることだ!すぐに答えを見ちゃうのは”反則”だぞ!」
ボブ「ギクッ」
(補足) 一般的に、販売促進のことを販促(はんそく)といいます。
▶登川講師の個人サイト『会計ノーツ』はこちら!
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CPA会計学院
財務会計論講師
登川雄太(Twitter)
このブログがみなさんに気付きを与え,お役に立つことができますように。
前回のブログでクレジット売掛金の会計処理を扱いました。
「日商簿記検定2級の試験範囲に加わったクレジット売掛金を理解する!」
その後このような質問を受けました。
「支払手数料は損益計算書ではどの表示区分に計上するんですか?」
なかなかするどい質問です。
財務諸表の結論までしっかり考えるからこそ思いつく質問だと思います。
そこで、今回は表示区分について考えていきましょう。
早速ですが、さすがに特別損失になるはずはありません。
ですので「販売費及び一般管理費(販売費)」もしくは「営業外費用」になりそうです。
そこで両者のどちらに計上されるのか?を検討していきます。
(続きを読む前に自分で一回考えてみましょう!)
1.販管費である論拠
(1)クレジットカードのメリット
そもそもお店が手数料を払ってまでクレジットカードで販売する理由は何でしょうか?
以下のボブとノボのケーススタディを見てみます。
**************************
ボブ:クレジットカードを持っていない
ノボ:クレジットカードを持っている
ボブ「あの服かっこいいな!買っちゃおう…あ、でも今日お金持ってないんだ!じゃあ、あきらめるしかないな…」
ノボ「あの服かっこいいな!よし、買おう。おっと!お金が足りないぞ。でもクレジットカードあるから大丈夫だ。すいませーん!これください!」
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このケーススタディから分かる通り、「クレジットカードというのはお金がなくても買い物ができる」すなわち「購入する機会を逃さない」という点に購入者側のメリットがあります。
逆に考えると、販売者側からすれば、クレジットカードで販売することで「販売機会を逃さない」というメリットがあるということがわかります。
つまり、販売者にはクレジットカード手数料を払ってでもクレジットカードで販売する理由があるのです。
(注)クレジットカード手数料のことは一般的に加盟店手数料と呼ばれます。
(2)クレジットカードの手数料の性格
では、販売者が支払う手数料はどのような性格をもっているのでしょうか?
上記の点に注目してみると、
?クレジットカード手数料を払って
②売上を増やしている
と捉えることができます。
つまり、クレジットカード手数料は販売を促進するための費用(売上と関係する費用)という性格をもっているのです。
(3)支払手数料の計上区分
これでわかりました。
売上と関係する費用という側面から考えると、手数料は販売費の区分に計上すべきということになるのです!
続いて、営業外費用になる可能性はないのか?考えてみましょう。
2.営業外費用である論拠
(1)クレジットカードの別の側面
クレジットカードを以下のように考えてみます。
前回の取引図をおさらいしてみると、
②クレジットカード会社は10,000円から500円差し引いて9,500円を当社に支払う
③後日、クレジットカード会社は顧客から10,000円を回収する
という取引になっています。
この取引、クレジットカード会社視点でみると、下記のような取引に似ていると思いませんか?
②10,000円の貸付を行い利息500円差し引いた9,500円を支払った
③後日10,000円の返済を受けた
つまり、クレジットカードの取引は資金の貸し借りと似ているということがわかります。
だとすると、500円部分は金利の性格をもっている!ということがわかります。
(2)金利の性格からわかる計上区分
これでわかりました。
会計では金利の性格をもった費用は売上に直接関係ないという立場を採用しています。
そのため、この視点から考えると手数料は営業外費用に計上すべきとなるのです!
3.実際の計上区分
(1)有価証券報告書を調べてみた!
ん?と思うかもしれませんが、
このように、実はどちらからも考えることはできます。
仮に理論問題で聞かれた場合には、どちらで書いてもある程度点数はもらえるのではないでしょうか?
ただ、実際はどっちなんだろう?と気になるので調べてみました。
クレジットカード取引が一般的なのは飲食店なので、株式会社グローバルダイニングの財務諸表を見てみました。
(グローバルダイニングはラ・ボエムやモンスーン・カフェなどカジュアルな飲食店を運営する会社です。気楽に入れるのでよく利用しています笑)
すると、ありました、ありました。
信販手数料という名称で販売費の内訳の中に入っておりました!
(2)結論
つまり、実務では営業外費用ではなく、販売費の区分に計上しているということです!
この理由ですが、実はこの手数料、金利の性格よりも販売促進としての性格が強いのです。
(この後の「簿記の細道」で説明します)
そのため、販売費として扱われているのでしょう。
どうでしょうか?
「クレジットカードの支払手数料は販売費」と覚えるだけだと理解は深まりません。
今回のように、深く考えることで会計的思考が養われていきます。
ぜひとも、会計的思考を身につけてほしいと思います!
【簿記の細道~販促小話】
ボブ「販売促進としての性格とか金利の性格とか、そのものの性格をしっかり考えることが会計的思考を養う上で大切なんですね。答えを先にみちゃうと考えなくなるので、まずは考えることが大切ですね。(僕はすぐに答えみちゃったんだけどね。)」
ノボ「そうだな。あと、上記の他にも、販売側からすると代金をクレジットカード会社から一括して受け取ることができるため代金の回収の負担が減るというメリットもあるんだ。そう考えると、クレジットカードの手数料には、クレジットカード会社の決済システムの利用料という性格も入っているということがわかる。つまり、手数料は一概に金利の性格とは言えないため、やはり販売費に含めるべきといえるな。ただ、ここまで考えることは難しいから、基本は販売促進のための費用だから販売費でOKだ。どちらにしてもまずは考えることだ!すぐに答えを見ちゃうのは”反則”だぞ!」
ボブ「ギクッ」
(補足) 一般的に、販売促進のことを販促(はんそく)といいます。
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財務会計論講師
登川雄太(Twitter)
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