
公認会計士論文式試験(15年8月)企業法 解説講評」菅沼講師ブログ(企業法)
こんにちは!企業法専任講師の菅沼です。
みなさん論文式試験お疲れ様でした!
自分が受験生時代のことを思い出すと,企業法は最終日ですので,相当な疲労感と「今日で終わるぜ!」という適度な高揚感の中で受験したことを覚えています。
それでは,早速ですが,今回の試験の講評を書きたいと思います。
まず全体としてですが,近年の傾向通り,すべて事例形式の問題でした。
全体的に何が問われているのかが問題文から読み取りやすい問題でしたので,何を書けばいいのか悩むということはなかったのかなと思います。
第1問は株式会社の設立の範囲から,問1 財産引受けに関する手続,問2 財産引受財産の価額が著しく不足する場合の義務と責任について出題されました。
問1については,本件土地の取得が財産引受けに該当する旨を指摘したうえで,財産引受けに関する手続が問われているわけですから,財産引受けが変態設立事項として規制されている旨とその趣旨を述べるべきです。以下,手続について述べます。
まず,財産引受けは定款の相対的記載事項ですので,定款に一定事項を記載します。
そして,本問では検査役の調査を回避したいとあるので,その手法を述べなければならなりません。本件土地の定款記載額は2,000万円なので,財産の総額が500万円を超えない場合の少額財産の特例を受けることができないことから,検査役の調査を回避するためには,専門家の証明を受ける必要があります。さらに,対象財産が不動産であるため,弁護士等の専門家の証明に加えて,不動産鑑定士の鑑定評価が必要です。
そして,検査役の調査が免除される代わりに,設立経過の調査として,設立時取締役に弁護士等の証明が相当であることについての調査義務が課されます。
設立時取締役の調査については記述漏れが生じやすい箇所かなと思いますので,忘れたとしても気にする必要はないでしょう。それ以外の基本的な事項が書けていれば問題ありません。
問2の全体観としては,不足額を支払う義務(52条)と損害賠償責任(53条1項)について,メインの記述は義務を具体的に規定している前者の不足額を支払う義務についてということになります。
不足額を支払う義務については,発起人,設立時取締役,弁護士等の証明者に連帯して課されるものですが,無過失責任なのか,無過失の立証責任が義務を負うものにある過失責任であるのかを明確にして記述していくことが必要となります。
まず,Aについては発起人でありながら,本件土地の譲渡人という立場であるため,本件土地の譲渡により直接利益を受けている張本人として,無過失責任となります。
これに対してB(発起人であり設立時取締役である)および証明者の義務は,無過失の立証責任が義務を負うものにある過失責任です。
証明者の義務は条文上明らかなので,問題はないと思うのですが,発起人と設立時取締役の義務の性質が多少複雑なので注意が必要となりますね。この点は,テキストにあるフローチャートを思い返して頂けたことと思います。
それでは,続きまして第2問です。
第2問は機関の範囲から,株主総会の決議の瑕疵について,問1 説明義務違反が生じている事例,問2 招集通知漏れが著しい事例について出題されました。
問1については,取締役の説明義務違反を決議方法の法令違反として,決議取消しの訴えを提起していくことになります。314条と831条1項1号の条文をしっかり指摘したい問題です。
本問において,Bの質問は議題に関するものであるし,314条ただし書に定められている説明を拒否できる事項に該当する事実は認められないにもかかわらず,Aは一切の説明を拒否し,他の株主からの質問も受け付けることがなく審議を打ち切っているため,説明義務違反,すなわち,決議方法に法令違反があります。
ここで,決議方法が法令違反の場合は,瑕疵が軽微な場合があり,決議をやり直しても同じ結果が予想されることもあるため裁量棄却が認められています。
裁量棄却は,招集手続または決議方法が法令または定款に違反するときであっても,裁判所は,その違反する事実が重大でなく,かつ,決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは,決議取消しの請求を棄却することができる制度です。
しかし,本問のように株主が有する質問権を侵害するような場合は違反する事実が重大でないとはいえないことから裁量棄却は認められません。
問2については,総議決権数の7割を保有する株主に対して招集通知が行われていないという事実があり,瑕疵が著しい事例です。決議不存在確認の訴えを規定している830条1項をしっかりと指摘したい問題です。
招集通知漏れについては,決議取消事由(招集手続が法令違反)に該当するか,決議不存在事由(瑕疵が著しく法的に決議と評価できない)に該当するか問題となるところですが,本問は講義で説明した決議不存在に関する判例の事例よりも違反する事実が重大なものでした。したがって,決議不存在事由であるという判断は容易だったのではないでしょうか。
判断基準としては,瑕疵の主張を会社法上制限するのが相当でないほど著しい瑕疵が生じているか,すなわち,「法的安定性の確保」なんて言ってられない場合は不存在事由になるわけです。
以上,問題に関する講評です。
論文式試験を終えて,毎年思うことは,やはり基本的事項が幅広く問われるんだなということです。企業法については,知らない規制や論点が出たらどうしようという不安が多い科目ですが,そんな問題が出題されたところで受験生全体が出来ないということになるでしょう。
来年以降も論文式試験対策としては変わらず,論文対策集とテキストの内容を重要性に基づいてとにかくおさえるということに集中してほしいと思います。